待ちわびた、その瞬間

長い長い、2時間だった。

開始15分後、いっちゃんに声をかけると、わたしを見て、「はい!」と笑顔で返事をした。
気持ちに余裕がある。
これはいける!! と思った瞬間だった。

50分を過ぎた頃、ついに逆転。
キャプテンしょうちゃんの、最後の大会にかける想いが、そこにはあった。


信じていた。
わたしはみんなを信じていた。

朝、会場に連れてきた直後、グラウンドの中央に集まったみんな。
「みんな、これさわっとけーー!!」
と、おととし優勝した時の、あるアイテムを持ち出したたいちゃん。
それは、わたしたちの競技には欠かせないもの。
大事な大事なものだ。

円陣を組んで、みんなで握り締める。

「優勝するぞーーー!」
「おー!」
「全国いくぞーーーー!!」
「おーー!!」
「必ず はま先生を胴上げするぞーーーーー!!!」
「おーーー!!!」

元気な気合い入れだった。
円陣がほどけたとき、少し離れたところにいたわたしを、みんなが見た。
まるで呼んでいるかのように。(笑)

もう一度、円を描いて座るみんな。
わたしもその円に入る。

「いよいよだね。さあ、敵は誰?」
「自分!!」と、いっちゃん。
「苦しくなったら、辛かった夏を思い出せ!」
「夏!!」と、きょうちゃん。
「そう。悔しい思いをさせられた夏だよ。」
「だった!! あいつらには負けない!!」と、たいちゃん。
「絶対勝つ!!!」と、みんな口々に言う。

「自分を信じて、仲間を信じて、つないでいけ!!」
そう言ったわたしの言葉に、
「はい!!!」
と元気良く返事をしたみんな。

笑顔の円陣を組んだその時、優勝旗は目の前にきてたのかもしれない。


優勝の瞬間、じゅんちゃんが高々と突き上げた右手の人差し指。
すぐにかけよったみんなの歓喜の嵐にのみこまれた。
ただただ、涙があふれた。

朝の円陣で握り締めた、おととしの全国大会。
それをまた、手にすることができるのだ。
あんまり嬉しくて、みんなを抱きしめてあるいた。

優勝チームとして、監督も選手も記者のインタビューを受ける。
インタビューが落ち着くのを待って待って、ついにみんながそろって、はまちゃんが呼ばれてやってきた。

それは、待ちに待った、胴上げの瞬間!

「落とすなよ!?」と、みんなに身を預けるはまちゃん。(笑)

はまちゃんが胴上げされるのを見た時は、ほんとにほんとに嬉しかった。

そして、しょうちゃんが胴上げされる。
たった一人で引っ張ってくれたキャプテンを、みんなが讃えていた。

しょうちゃんが降ろされた瞬間、しょうちゃんとたいちゃんが、わたしを指差す。
「次はまこ先生だあああ!!!」
「!!」

逃げるまもなくつかまった。(笑)

「重いぞー。みんな気合い入れろーー!!」と、きょうちゃん。
「おいっ。」と、つっこんでるあいだに、放り投げられる。

そして3回目に落とされた。(笑)
はまちゃんはすごく大事に降ろしてたのに。
なんだこの違いは!!

その後は、みんなみんな胴上げされていた。

去年負けた悔し涙も、
苦しかった夏も、
この瞬間のためだったのだと思えば、すべてなんでもないような気さえした。


学校への帰り道、バスの中でみんな優勝旗を手に手に、嬉しそう。
ふと、「せんせーー!!」と、たいちゃんが運転しているわたしを呼ぶ。
バックミラーを見ながら、「なあに?」と返事をすると。

「せんせー、ちょっと重かったよ! はま先生より重かったよ!!」
「なんだと!?」
「うんうんうん!! ほんとに先生より重かった!!」
すぐにみんなが反応する。

そんなわけないだろ!!
でも、そんなこともどうでもよく思えてきたりする。(笑)

優勝旗を携えての祝勝会は、大盛り上がりだった。


長い1日だった。
でも、ほんとに楽しい1日だった。


閉会式でもらった賞状と優勝メダル。
なぜかはまちゃんに閉会式に出されたわたしは、監督用のメダルを持っていた。
「はい。」と、メダルを渡すと、
「あなたが持ってて。」と、受け取らない。
「もらいなさい。」とおっしゃる。

照れ屋さんなはまちゃんの、感謝の気持ちなのだろう。

素敵なプレゼントで、1日が終わったのだった。